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宮崎地方裁判所都城支部 昭和42年(わ)24号 判決

主文

被告人を懲役二年六月に処する。

この裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

第一罪となる事実

被告人は、昭和四二年四月三〇日○○県立○○高等学校(通信教育)の入学式に出席し、同日午後七時三〇分頃より、友人A(当時一九才)と○○市○○町内の飲食店などで飲酒して帰宅するため、翌同年五月一日午前三時頃、同市○○町一街区三号「○○食堂」こと○○方前路上を通りかかった。そのとき、たまたま同食堂が締っているため屋内に入れず、困惑していたB子(当時一九才)から呼びとめられ、家人を呼び起して欲しい旨依頼された。そこで、被告人は、Aとともに呼び起したけれども、家人はついに起きて来なかった。そのうち、被告人とAは、意思を相通じ共謀のうえ、強いてB子を姦淫しようと考えた。そして、AがやにわにB子の背後から首に腕をかけて後方に引き倒し、被告人がB子の両足をつかんで押えつけ、さらにAが必死に助けを求めるB子の口もとを手のひらでふさぐなどの暴行を加えた。このようにして、B子の抵抗を抑圧した被告人らは、B子の両脇から腕組みをして、同所から約一五〇米離れた同町一二街区一二号所在の○○小学校の校庭を経て、同校東校舎本館中央のコンクリート廊下まで連行した。その途中、Aは逃げ出そうとするB子の顔面を平手で二回殴打した。このようにして、まずAが同時刻頃その場において前記被告人らの暴行により抵抗をあきらめたB子を仰向けに押倒してその上に乗りかかり、強いて姦淫しようとしたが、果さず、ついで、被告人が同様、強いてB子を姦淫し、さらにAが同様B子を姦淫した。

第二証拠の標目 ≪省略≫

第三法令の適用

被告人の判示所為は、刑法一七七条前段、六〇条に該当するので、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月に処する。ところで、本件犯行は、被告人らを信頼して助力を求めた通りすがりの女性に二人がかりで暴行を加え、無理矢理校舎内に連れ込み、輪姦したものであり、この種事案として、その態様において必ずしも悪質でないとはいえない。しかし、本件において主動的役割を果したのは、むしろAであると認められること、被告人には、同種前科はもちろん、警察で取り調べをうけた経験もなく、真面目に生活して来たものであること、被告人は、強く本件を悔い、充分反省し、今後の更生を誓っていること、また、被害者側にAとともに金一〇万円を支払い、当事者間に示談が成立していること、被告人が成人後間もない前途ある身であることなど、諸般の情状を考慮して、同法二五条一項を適用し、この裁判の確定した日から四年間右刑の執行を猶予する。訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文により、被告人に負担させることとする。

(強姦致傷の事実を認めなかった理由)

検察官は、被告人らが判示暴行により、B子に対し治療約三日間を要する大腿内部擦過傷を負わせたものであると主張する。なるほど≪証拠省略≫によれば本件犯行の約二時間後にB子を診断した医師吉山は、B子の両大腿部に合計三個所位の拇指頭大よりやや小さい擦過傷を認め、それが全治するまでに約三日間を要すると判断したことが認められる。そして、証拠の標目欄に前掲した各証拠によると、右創傷が被告人らの姦淫行為自体、もしくは、その際の暴行により生じたものであることは、これを認めるにかたくない。しかしながら、≪証拠省略≫によると、B子は医師の診断をうけるまで全く傷の存在を自覚せず、全然痛みも感じなかったこと、前記の擦過傷というのは、表皮が少し破壊されただけで、何らの治療はもとより、その個所の消毒すらも必要でなく、放置しておけば自然に二、三日で跡かたもなく消え去る程度のものであることが認められるのである。このように一般日常生活において看過される程度のきわゆて軽微な損傷であって、人の生理機能に障害を生ぜしめたとも、あるいは健康状態を不良に変更したともいいえないのみならず、生理機能の障害と同視しうる程度に身体の完全性をき損したともいいえないものは、かりに、医学上の概念として創傷といいうるとしても、直ちに刑法上の傷害にあたると断ずることはできないものと解さなければならない。したがって、被告人らの行為が強姦致傷罪にあたるという点については、結局犯罪の証明がないことに帰する。

そこで、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 堀口武彦 松村恒)

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